『中国の経済改革と資本市場』(森田憲・陳雲著),東京:多賀出版株式会社2009年3月
(本書の内容)
現代中国の体制移行と発展を、社会科学の適切な枠組みにもとづいて正しく理解することは、日本を含む東アジアのみならず国際経済・社会にとって枢要かつ緊急の課題である。とりわけ資本市場を精確に理解することは、持続可能かつ安定的な国際経済・社会の発展に不可欠である。だが、現代中国の体制移行と発展の現状を精確に分析することは極めて困難な課題であり、そのためには、中国の経済・政治・社会等の現状を熟知し、中国の体制移行の諸側面を正しく理解している等の諸条件を必要とするからである。
本書はそうした課題と現状に照らして、第1に、学際的かつ国際的視点から中国をとらえることを試み、権威主義開発体制の側面から、東アジアNIEsモデル、東南アジアモデルとの比較をつうじて、中国の体制移行と発展の理解につとめたものである。そして、第2に、中国の資本市場の解剖をつうじて、中国経済の体制移行と発展の現状と展望をとらえたものであり、「過度の市場化」すなわち未成熟な政府と未成熟な市場が併存し、政府の「国家能力」の不足によって未成熟の市場が歪められている現状の提示と分析を試みたものである。
本書は、したがって、中国において、東アジアモデル諸国で観察された、「経済の近代化が政治の民主化を促す移行の論理」が存在するか否か、存在には何が必要なのかを示すものである。
(本書の目次)
はじめに
目次
第1部 中国の体制移行と経済発展
第1章 中国の体制移行における開発モデルの変遷と所得格差
はじめに
1.現状の概観:中国および中欧
2.中欧における対内直接投資
3.中国における対内直接投資
4.開発モデルの分化と所得格差の変化
5.中国の体制移行:何が発展を促進させたのか
おわりに
第2章中国開発モデルの経済学
はじめに
1.鄧小平開発体制の複合性
2.中国における開放体制の確立
3.中国開発モデルの問題点
4.中国経済開発モデルにおける「挙国体制」の特徴
5.体制移行の諸問題
6.「現実追随型」制度変遷メカニズムの展開
おわりに
第3章 中国開発モデルの政治学
はじめに
1.第二次大戦後アジア諸国の経済的・政治的発展の経緯
2.東アジア権威主義開発体制の特徴
3.東アジアにおける3種類の権威主義体制
4.一党独裁体制下の党政関係と技術官僚の役割:台湾の経験の解読
5.「成長の共有」の課題:東アジアNIEsモデルと東南アジアモデルの比較
6.中国の道と中国の課題
7.結語
第4章 中国開発モデルの社会学
はじめに
1.四つの機能的緊急事態
2.四つの交換類型
3.国際レジームの四つの性質
4.経済体制の四つの類型と体制移行
5.考察:体制移行と発展の経済社会学
第2部 中国の体制移行と資本市場
第5章 中国の社会主義市場経済と商品先物市場
はじめに
1.中国の経済社会:中国社会における投資行動
2.中国の経済体制:先物市場とどのような関係か
3.社会的規範の転換:進化ゲーム
4.中国の商品先物市場:効率性検定
5.おわりに:中国の商品先物市場は発展可能か
第6章 日本の対中国直接投資
はじめに
1.背景
2.日本の直接投資をめぐる現状
3.分析
4.結論
第7章 上海における不動産開発の政治経済学
1.はじめに:「舞台」と「役者」たち
2.上海における不動産市場の需要形成:都市化のインパクト
3.上海における不動産開発の現状
4.不動産開発における諸問題
5.「投資型」需要の急増:不動産市場の攪乱要因
6.銀行の不動産向け融資の動向と金融リスク問題
7.結論
おわりに
参考文献
索引